■蒼い林檎の名前  −1−






















生きている事は不確かで実に不快な事。
死んでもまた生まれ変わるとか、青年期とアイデンティティーがどうだとか、
太陽と月の位置関係とか、時間は人や愛を変えるとか、
気持ちが皆な同じ電子文字になる事とか、
遺伝子組み替えだ作られた生命だ、幼児虐待だとか、葛藤や矛盾だとか
不快な事だらけ。
君に出会った事。君と分かり合えた事。君を愛した事。
不快。不快。不快…視界が歪む。息が出来ない。





私は本能的に不快な事に依存する習性がある。
依存して息も出来ずにもがく自分を嘲る。擦り傷がしみる…それが快感。
だから生きてる事も本能的に受け入れられて居る。機械音にももう慣れた。
生まれながらにしてここに在る身体、精神と共に不快の渦にはまり、
何時も名前も知らない誰かに助けを求めるんだろう。
そうやって17年間生きて来たんだ。




日没数分前。
どこかの漫画でみたようにカラスと夕日コントラストが実に似合っている。
影が後ろに大きく伸びる。影は私から離れようとしない。
世界最高の美学に匹敵する風景。
斜め後ろには軽そうな鞄をダルそうに肩にかけて、
何も言わずにポケットに手を突っ込んで黙って付いてくる君。
君の斜め前にはいじけた子供みたいに空き缶蹴飛ばして
ポケットに手を突っ込んで歩く私。
小幅合わせる気すらなくて、2人別々の空間を歩いてる。
私達の間には愛情なんて言葉は存在しない。
お互いに何も求めず確信できる今だけを確かに息づいている。
それが2人の間に知らない間に出来たルールな気がした。
ルールを破ったらそこでゲームオーバー。もしくはTHE END。
始めにも終わりにも今にも…存在理由、そんなモノは存在していない。
秋風が微妙に涼しげで君が冗談(多分ね)で似合うって言った
私のロングヘアを無邪気に揺らす。
毛先が痛んでる。キューティクルだ、コラーゲンだの私には不足気味。
今日は英語があったんだっけ。辞書重いし。使わないし。
あ、そう言えば英語のプリント返してもらってないや。




「ねぇ。裕太。」




私は足を止めて君の方を振り返った。
下を見て歩いてた君は少し驚いた様に足を止めた。
そして0.5秒後に顔を上げて私の眼を見た。
私はとりあえず会話の始めに君の名前を呼ぶ。





「ん?」

「英語のプリント返してもらってないんだけど。」

「あーわりぃ。家に置きっぱなし。」

「そ。」

「明日もってくっから。」

「朝来たら机に入れといて。」

「おう。」




始めっからせリフが用意されてたかのような会話。
私から初めて君の返事で終わる会話。
こう言ったらこう返って来る。私の辞書は結構つまらない知識ばかりだ。
恋人同士とかなら辞書の内容も豊富で使えるセリフも山ほどあるだろう。
でも、私達はあいにくそういうグループ名じゃない。
静寂を破って訪れるのは新たな静寂。
全て無にする…それでも罪を感じていない君の応答。






君は私の名前を呼んではくれない。






「裕太…」

「ん?」

「そー言えば誕生日近いよね。」

「誰の?」

「裕太のだよ。」

「3ヶ月も先じゃん。」

「プレゼント何が欲しい?」

「会話かみ合ってねぇし。」

「前は何あげたっけ?」

「(聞けよ)さあ。忘れた。」

「(ひど)何が欲しい?」

「別にいらねー。」

「プレゼントなんていらないから愛が欲しいって奴ですか?」

「あー…多分違う。」

「(ち)あ、裕太、彼女と別れたんだって?」

「…女ってそー言う情報早いよな。別れたさ。5日前に。」

「結構可愛かったのにね。裕太の好きそうな顔じゃん。
 あ、また“遊びだったのね!”とか言われたんでしょ?」

「知るかよ、んな事。(図星だし)」

「相変わらずだよね。人とマジメに付き合えないのね。」

「別に遊んでるつもりはねぇよ。付き合ってくれって言ったのあっちだし。
 勝手に遊んでるって想われたんだよ。てか、お前には関係ないだろ。」

「(話すだけ話してお前には関係ない…ですか;)それはそれは。」

「つーかさお前も人の事、言えねーだろ。」





…痛い所を突かれた。ああそうかもね。
私も裕太と同じで自分から告ったりはしない。
受験勉強から逃避して付き合った同じ塾の人とか
2年生の始めに付き合ったサッカー部の先輩とか
夏休み前に付き合った話したことも無い同じクラスの人とか
今付き合ってる隣の高校の生徒会長の人とか。
付き合ってみたけどやっぱりすぐ終わっちゃった、
始まりから終わりが見えてるんだもん。でも付き合った。
だって声とか。髪型とか。性格とか。話し方とか。
…裕太に似てたんだもん。





「うっせー裕太のバカ野郎。」

「キレんなよ。あー可愛い子居ないかなー深田恭子みたいなさー。」

「(私、深田恭子ではないな…。)」

「でも可愛い子で性格いい奴ってなかなかいないよなー。」

「(贅沢だよ)」

「なーんて。俺そんなタラシじゃないし。別に付き合わなくても生きていける。」

「よく言うよ。でもさ、人間の欲は生きてる限り続くし。いんじゃない?」

「なんじゃそりゃ。てか何がいんだよ…」

「隣に誰か居ないと安心できない生き物なんだよ、人間は。
 隣に居る人を求めるのは退屈な日常から逃避する為。
 ハマっちゃえば暇感じないじゃん?」

「へー…変な哲学持ってんな。」

「有難いお言葉ですわ。
 終わりが近づくと怖くなる…また退屈な日常が戻ってくるのが。」

「………ふーん。」





恋愛とか言うものは……恋愛とか言うものは隙間を埋める小さな怠惰。
求めてしまうのは簡単。私の欲が満たされても不快な世の中は変わらない。
だって君は私の名前呼んでくれないんだもん。





「ねぇ裕太ってさ、」

「なんだよ、」

「結婚する気ある?」

「は?」

「子供作る気ある?」

「は?ついに頭イカれたか?」

「失礼な、今の所、私の子宮には予約入ってないんです。」

「……そうですか。」

「(なんだその間)例えばさ、私が裕太を好きって言ったらどーする?」

「……さぁ。」

「(気まずいよその間)私は裕太を愛してます。」

「????………俺も。」

































「ははははっ、裕太、嘘上手くなったね。」



































「お前もな。」





































ほんと…上手くなった。






























続く
友達の名前借りました。ありがとう。
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